物語としては勝っている。
でも、心の中では何も回復していない。
だからこの夢は「成功したように見えるのに、救われない」――そんな“偽の成功”を描いていました。
後編では、監視カメラ/影への出入り/空間ごと斬る刀という三つの装置から、その仕組みを解体します。
前編では、この夢を「少年漫画のような冒険譚」として読むのではなく、象徴として分解して読むために、舞台と登場人物の配置を整えました。
教会は教会でありながら神聖性を失い、4という数字は明言されながら最初から破綻している。――夢は物語を始める前に、すでに「中心が機能していない世界」を宣言していた、というのが前編の結論です。
さらに、夢に登場する4人の女性は、それぞれ役割がはっきり分かれていました。
教会から抜け出してきた乙女(救うべき存在)、倫理観の壊れた長の女(黒幕)、葬列の中で際立つ老婆、そして超常に詳しい専門家の女。
この4人は、過去の記事で扱ったアニマの4相――エヴァ/ヘレネー/マリア/ソフィア――の枠組みに、無理なく当てはめることができる。ここまでが前編で確定した「配置」です。
しかし、配置が綺麗に揃っていることと、救済が成立することは別問題です。
この夢は、表面だけ見れば「敵を倒してヒロインを救う」という、あまりに王道の筋立ての第一話の導入のようです。
しかし、アニマの理論をあてはめると、ある一点、どうしても納得できないズレがある展開があります。
このズレこそが、後編で扱うテーマです。
後編では、前編で伏せていた明確なおかしさを回収しつつ、夢の後半に登場する三つの装置――監視カメラ、影への出入り、空間ごと斬る刀――を手がかりにして、「偽の成功」がどう成立しているのかを検証していきます。
前編はこちら
https://note.com/tack6556/n/nf676de551ae9
違和感の正体
それは、第1のアニマ「エヴァ」に相当する人を助けるために、第2のアニマ「ヘレネー」に相当する人を打倒さねばならない展開になっているということです。
アニマの統合は、下から行わねばなりません。
エヴァの統合がなされた後に、ヘレネーに着手していくのが正道です。
しかし、この物語はエヴァを助けるために、ヘレネーを打倒さなければならないという展開を取ります。
これは言い換えると、エヴァを統合するために、ヘレネーを統合しに行くようなものです。これはあまりに妙です。鍵を開けるために、扉を開ける、破壊しようとしているようなものです。それほどの違和感です。
前編でもったいぶっていた違和感もここで回収しきりました。
ではこれから、前編ではまだ解釈しきれていなかった物品・展開・人物について記述していきます。
解説1.監視カメラ
夢の本編の最終盤で出現した装置です。
おそらくアニマのうちヘレネーと強く対応しているのではないかと思われる女性はこの監視カメラで、夢を見る本人と、影を出入りする男の争いの一部始終を見ていました。
監視カメラで見るという行為はいったい何でしょうか。
なぜ、その場で見ているという表現ではなく、監視カメラで見ているという表現をあえて行ったのでしょうか。
監視カメラは高所に据えられた機械の目であり、なおかつ遠方から確認するための道具です。
ヘレネーが持つ「確率操作」の力と同じようにこれは神の力の象徴ではないかと思われます。教会という象徴から神聖を剥奪し、4(調和)の前提も崩した夢の中で、本来の概念として精神的な高みと最も遠く位置するはずのヘレネーにこれでもかというほど神の力を象徴するものが集まっているのです。
解説2.影に出入りする男
他の登場人物である4人の女性は、夢報告者にとっては異性でした。
しかしそんな中で同性の登場人物として唯一存在します。
敵対することや、「影」を出入りするなど、自分にとっての男性的な無意識的側面であるとこれでもかというほど修飾されています。
注目すべき点は影を出入りすることができる能力を持つということです。
影は目に見えない暗黒の空間、人間が意識することのできない領域、無意識の象徴であると扱って構わないでしょう。
であれば、無意識の領域と意識の領域を自在に行き来できる能力を持つということは何を意味するのでしょうか。
この影を出入りすることができる男という存在が象徴するのは、無意識も自分は自在に操作することができるという思い込みそのものでしょう。
あるいは、影を扉や穴であると見立てることも可能です。その場合、この男性は女性を性的欲求の発散の道具としてのみ扱うことを象徴している可能性もあります。
女性的な美や性的な象徴でもあるヘレネーに相当する女性がけしかけてきたという文脈があったことからも、このとらえ方は決して突拍子もないものではありません。
この男性は物語の後半で刀で打ち倒されます
解説3.内的太陽としての刀
夢の本文では、上記の影を出入りする男を、空間を斬ることができる刀で、切り伏せます。直前の失意などから、まるで物語としてのプロットが存在するかのように美しい展開です。
刀は剣と同じ役割を持つと仮定して読んでみました。
剣には様々な意味がありますが、この夢の中での活躍ぶりから、太陽であり、知識として出現しているのではないかと思います。
この知識によって降りかかった火の粉を払うというまさしく大勝利を収めるわけです。
物語としては非常に美しい。しかし、分析的に見ると、手放しで喜べるような状況ではないかもしれません。
根拠は2つ
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けしかけてきた元凶である女は、それを見て笑みを浮かべている
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人間が全体性を持つ自己を獲得するうえで否定的側面は受容するべきであって、拒絶するものではないこと
この2つの根拠から、刀で影の中に隠れていた男を打ち倒すことは以下のように翻訳できるのです。
知識と理性を持って、無意識が操作可能であるという誤った信念と、女性をただ性的欲求を向ける対象としてのみ見ることを完全に拒絶した。
社会的・道徳的な是非は別として、異性を性的欲動の向かう先として認識することは決して不義理なことではありません。
むしろ生物としてみれば自然なこと。
自然なことを拒絶するなど、それではヘレネーの統合を遠ざけるばかり。
これは良いことだと言えるのでしょうか。
それに前者についても同じことが言えます。
ただ、ここで問題になるのは「誤った信念を捨てた」ことそのものではありません。
問題は、その捨て方が統合ではなく、断罪(切断)として描かれていることです。
無意識が操作可能だという傲慢を否定するのは健全に見えます。しかしそれを出入り口は塞ぐかのような形で処理すると、今度は反動が起きます。押し込められたものは別の経路で戻ってくるものです。夢が過激になる、衝動が歪んで噴き出す、あるいは無力感として反転するなどです。
つまり刀の勝利は、問題の解決ではなく沈静化に過ぎない可能性があります。
統合:偽の成功とは何か
この夢を冒険譚として、物語として順当に見れば、ヒロインがなくなるというきっかけがあり、目標を見つけ、そのための障害を排除したという無難プロットを示しています。
しかし、各パーツを象徴的に考えていけば、統合の順序が逆であったり、拒絶で敵を排除したり、神の力で妥当ではない場所にとどまっているなど、多くの違和感を内包しています。
ゆえに私はこの夢を「成功の形をした失敗」あるいは「偽の成功」を示す夢ではないかと考えます。
結論:この夢が言っていること(2つのセリフ)
長々と続けましたが、この夢が示した内容を鑑みて、本人に告げるメッセージは2つ考えられます。
私(そしてあなた)は、濁った生活の中で、成功と始まりを求めている。
そのために前に進む入口を探さなければならない。
今、成功に見えているものがある。けれどそれは偽物だ。
勝った形をしているだけで、中心は回復していない。
ここまで読むと、結論は「どちらが正しいか」ではなく、どちらが今の自分に刺さっているかの問題になります。
欲求の告白として聞こえるのか、警告として聞こえるのか。――その受け取り方自体が、いま自分がどこに立っているかを示してしまう。
そして、もしこの夢が「偽の成功」を告げているのだとしたら、次に問うべきはこれです。いま自分が成功と呼んでいるものは、中心を回復させているのか。それとも、中心から目を逸らすための成功なのか。
もちろん、現実の成功にはいろいろな形があります。評価されること、数字が伸びること、仕事が進むこと、生活が少し楽になること。どれも「成功」と呼んでいいでしょう。
ただ、夢が問題にしているのは外側の結果ではなく、その成功が自分の内側で何を起こしているかです。
救われているのか、ただ忙しくなっているだけなのか。安心が増えたのか、監視の目が強くなっただけなのか。
では、あなたに問いかけます。
いま「成功」と呼んでいるものは、具体的に何ですか?
それを手に入れたとき、あなたの中の中心は静かになりましたか? それとも、さらに急かされましたか?
そして――その成功は、始まりになっていますか。それとも、始まりのふりをした延命ですか。
夢は、命令ではなく信号です。
痛みやだるさと同じで、「いま、どこかが歪んでいる」「いま、何かが求められている」とだけ知らせてくる。
だから夢は、どうしろとも言わないし、成功を祝福もしない。判断と選択は意識の仕事です。
ただ――信号を無視したまま前に進むと、どこかで必ず別の形で現れてきます。
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