このサイトでは、夢に出現する象徴について、辞典の中の記述を参考にするなどして、何度か解説してきました。
その中であえて触れてこなかった概念がありました。
それが元型(アーキタイプ)です。
理由は単純で、私自身がまだ、他人に説明できるほど元型についての理解が深いとは言えなかったからです。
私自身が未熟な知識を持つのには問題がありませんが、私の知識を見た読者の方が、この知識が正しいものであると勘違いしてしまっては取り返しがつきません。
しかし、明日投稿するケース記事は『アニマ』という概念が深く関与するものです。
例え不完全であったとしても、提示する意味があると考え、本記事にまとめます。
1.アニマとは一体何か?
アニマとは、男性の中に存在する女性性です。
アニマの説明はこれだけなのですが、この説明を理解するためには補償と陰陽の関係を把握しておく必要があります。
「男らしさ」とは一体なんなのか、説明できるでしょうか?
一般的に言えば大胆さや行動力、論理的思考などが思いつくでしょうか。
そういった男らしい行動を行うとき、男らしくない行動はどこへ行ってしまったのでしょうか?
これが陰陽の考え方です。
人は、光と闇、男性性と女性性のように、対になる要素を潜在的にはすべて持っています。その要素を持っているのにも関わらず、男らしくない行動は捨てられてしまっています。
その捨てられてしまったものは蓄積するばかりです。
この蓄積を発散する場所として夢が選択されやすいのです。
こうしたプロセスで、日常では選択されない行動、意識されない行動が夢で出現することが補償なのです。
※男性的な人が、パートナーの前で過度に甘える。普段理性的な人が衝動的に行動を行ってしまう。これは補償が夢でなく、現実で生じている例です。
より大胆で、より行動的で、より攻撃的な男性は、それだけ男らしくない行動を捨ててきたことになります。
それは意識的・無意識的にかかわらずです。
そんな男性のアニマは相対的にいっそう“男らしくない”方向へ傾くことになります。つまり女性らしいということです。
そしてそのアニマはたいていはパートナーに向けられるといいます。
異性に惚れるということが、アニマの投影から始まるということは珍しいものではありません。
むしろ、そのほうが多いのではないでしょうか。
アニマの投影によって他人に惚れるということは、自分の中の女性性に惚れているということです。目の前の異性が自分のアニマではない他人であるという事実に気づく、その時の落胆は計り知れないだろうと思います。
2.4種のアニマ
アニマは4段階あると言われています。
その4種はEva, Helena, Maria, Sophiaの4つです。
これらは低次元から高次元へと発達していくものです。
この4種のアニマに単純な優劣関係はありませんが、土台となるEvaの統合がまだなされていないなら、より高次のヘレネやマリアの統合は成せないと。
それぞれのアニマの説明を行います。
【第1のアニマ】
まず、第1のアニマはエヴァ。
これは母親的なアニマです。依存や安心をもたらしてくれる女性像。
しかし、これは反転もします。依存してくれる存在。安心を求めに来てくれる存在。これもエヴァになりえます。
植物を育てる、ペットを育てることで心的に安定することを、このアニマが満たされているから、と説明することもできます。
※心理学は、説明しようと思えば万物を説明可能なので、あえてこういった説明をあてはめる必要はありません。そこまでいくと不毛です。
【第2のアニマ】
第2のアニマはヘレネーです。
トロイア戦争の引き金になった美しい女性の名称が使用されています。
これは異性としての女性、性欲の発散先としての女性像です。
魔性の女や、ファム・ファタールのように、美しいとされる存在は、ここに入るかなと思います。
一般的な人が目指す『美しさ』を内包する存在です。
【第3のアニマ】
第3のアニマはマリアです。
聖母マリアの名が使用されています。
処女懐妊したマリアと同じように精神的な高みや神聖さを持つ女性像です。
4種のアニマの中で女性像としては、最も理想的に描かれる段階です。
清廉さ・倫理・献身・神聖さを十全に身につけている女性の象徴です。
しかし、性交渉という負の側面を経験することなしに、神の子を孕んだマリアのように、この第3のアニマは清廉さしか持ちえません。
善と悪、光と闇、陰と陽を統合することを目的とする分析心理学の中では最終段階のアニマではありません。
【第4のアニマ】
第4のアニマはソフィアです。
ソフィアとは知恵です。
象徴の世界では知識や知恵というのは男性側の領域で、感情が女性側の領域だとされます。
そう、ソフィアは男性性をすでに内包する女性像なのです。
男性であり、女性であるというまるで饗宴のアンドロギュノスのような矛盾をはらんでいるにもかかわらず成立する最奥のアニマ。
ゆえに、ソフィアには女性らしさはありません。
善と悪を併せ持つアブラクサスであり、神曲におけるベアトリーチェであり、戦の女神アテネなのです。
自己の全体性を見つける個性化というプロセスは、錬金術における、あらゆる金属を金に変える存在、「賢者の石」に例えられることもあります。
皆さんご存じだと思いますが、賢者の石は実現不可能なものでした。
個性化もまた、現実の人生の中で“完了”することはほとんどありません。
最奥のアニマであるソフィアを統合することは個性化における最終局面です。
そのため、ソフィアを完全に自己に取り入れることを完了させることは極めて難しい。
ゆえに日常の自己理解では第4のアニマの存在を考えることは稀であると言っていいでしょう。
3.まとめ
ここまで書いてきた4段階は、「相手の女性を4種類に分類するため」の理論ではありません。
そうではなく、夢の中に出てくる女性像を、役割として整理するための地図です。
夢はしばしば人格をそのまま描きません。むしろ、依存・魅惑・倫理・知恵といった機能が、人物の姿を借りて登場します。だからこそ、この枠組みは夢の読み取りに向いています。
もちろん、これは診断でも決めつけでもありません。実際の夢では、エヴァとヘレネーが混ざったように出ることもありますし、マリアが弔いとして現れることもあります。重要なのは「この女性は誰か」を確定することではなく、「いま自分の中で、どの機能が強調されているか」を見ることです。
そして、投影の話と同じで、この枠組みを現実の他者にそのまま貼り付けて裁くのは、たぶん一番危険な使い方です。
明日は、4人の女性が明示される夢を題材にして、今日の“地図”を実際に当てはめてみます。地図を持つだけでは意味がありません。歩いて検証したときに、はじめて使える道具になります。
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